No.1--「軽井沢で暮らす」--冬の恋人たち(軽井沢より)

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東京生まれの東京育ちの私が軽井沢に住むことになっ

た。その時は突然やってきた。いつも一緒に過ごしてい

た愛犬が急死したのである。

朝、出かける時はいつものように「じゃ、行ってくるから

ね。お留守番頼んだよ」って声をかけて出かけたのに、

仕事から帰ると、座り込んだまま立ち上がれない愛犬が

いた。別れは次の日にやってきた。あっという間の出来事

であった。愛犬はペットショップの隅っこに「誰がもらってください」という張り紙がされたゲージの中

にいた。ちっちゃくて、ふさふさの毛に包まれ、まんまるの目で私を見ていた。どうやら、混血のようで

ある。

ハスキーと柴犬?

そして、ベアーと名付けられ、我が家の一員となったのである。

ベアーは本当は犬じゃないんじゃないかと思うぐらい、家族に溶け込み、そして、家族の負担になら

ないようにしている様子がよくわかった。そんなベアー君を見ていると私たちの方がいつもなぐさめら

れ、そして元気付けられた。最後のその日の朝も、動けない体をヨタヨタと起こし、ひとりで見えない

所に隠れようとする。

「もうだめだ。ほっといてくれ」って。

年齢は十四歳にあと半年であった。最後まで誇り高く、誰の世話にもならないベアーであった。

その翌日から、家の中はシーンとしているのである。どんなに遅くなってしまっても、一日の疲れな

んて吹っ飛んでしまう、ニコニコと笑った顔がいつもあったのに。

そして、夜の道を二人で散歩しながら、今日あった事をいろいろと話したのに。

でも、呼んでも起きてくれないベアーがそこにいた。顔を近づけても顔をなめてはくれない。

「いままで、ありがとう」って何度も耳元でささやいた。ふっと、ベアーの体から何かが抜けて私の後

ろにまわったような気がした。すると、みるみるおだやかな顔になっていく。そして、頭を撫でながら、

頬に軽くキスをした。何度も。

 ベアーとの別れから一ケ月、住まいを一時移すことにした。その地が軽井沢である。

私はベアーのいない家に早く帰れなくなっていたのである。軽井沢には亡父から相続した家があり、

土地柄はよくわかる。東京からも遠くない。通える距離である。そして、軽井沢に引っ越した。

白い布に包まれたベアーの遺骨と共に。

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